平成27年10月
海外電力調査会

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当調査会参事による講演「中国の原子力発電状況~福島原子力事故対策の軌跡から」の報告について

平成 27 年 9 月 28 日に当調査会参事・渡辺搖が、科学技術振興機構(JST)の中国総合研究交流センター(CRCC)において「中国の原子力発電状況~福島事故対策の軌跡から」と題して講演を行いましたので、同機構作成の要旨をそのご了解のもと掲載します。
なお、同機構のホームページには講演資料が掲載されていますので、併せて以下をご参照下さい。
http://www.spc.jst.go.jp/event/crc_study/study-87.html

以上

第 87 回 CRCC 研究会「中国の原子力発電状況~福島原子力事故対応の軌跡から」/講師:渡辺 搖(2015 年 9 月 28 日開催)

素早かった中国の福島原発事故対応-渡辺搖・海外電力調査会参事

中国総合研究交流センター

一般社団法人海外電力調査会参事の渡辺搖(わたなべ はるか)氏は 9 月 28 日午後、東京千代田区の科学技術振興機構(JST)東京本部別館1F ホールで開かれたJST中国総合研究交流センター(CRCC)主催の研究会で「中国の原子力発電状況~福島原子力事故対策の軌跡から」と題して講演した。

渡辺氏はこの中で、2011 年3月 11 日の東日本大震災と福島第一原子力発電所事故発生当時、中国で勤務していたという経験を踏まえ、日本の福島原発事故に対する中国中央政府の対応を紹介。当初もたついた日本政府の対応に比べ、極めて素早く、「国家発展改革委員会、国家エネルギー局、国防科技工業局、環境保護部( 国家核安全局)、財務部等といった、原子力推進業務、原子力規制業務、管理応援業務を所掌する各部門がそれぞれの所掌業務を果たし、中国の原子力開発の新たな局面を切り開いていった」と報告した。

渡辺氏によると、中国政府は福島原発事故発生の5日後に当たる3月 16 日、① 中国のすべての原子力プラントを対象とした全面的な安全検査の実施②原子力プラントの設置許可の厳格化と当面の新規プラントに関する設置許可の一時凍結- といった基本方針を決定。その後、被害を恐れる国民に向けて書籍「原子力と放射線への対応と防護 99問」を編集・出版したり、全国 44 地点における空間線量測定結果とその評価をホームページにアップしたりした。また、中国政府は翌 2012 年 6 月 12 日、「福島原子力事故後の原子力発電所改善行動の通用技術要求(試行)」を制定。同月 19 日には「原子力安全及び放射線汚染対策『十二・五』計画及び 2020 年長期目標」を決定し、日本の原発事故の教訓をしっかりと吸収しながらより安全な原発開発再開に向け着実に歩みを進めていったという。なお、この間においても、既に着工している原発については、厳格なチェックで確認しながら建設が継続された。

この結果、中国では 2012 年 11 月に建設許可の凍結が解除され、今年に入ってからも方家山原発2号機、寧徳原発 3 号機、陽江原発1号機の営業運転が始まり、今年3月には紅沿河原発5、6号機の建設プロジェクトに「実施許可」が与えられ、既に着工したという。また、こうした原発建設によって、中国の原発による発電設備容量は今年 7 月末で 2340 万kW となり、2020 年末には 5800 万 kW をめざしているという。
渡辺氏はこうした事実を指摘しながら、中国の親日的な友人である中国農業大学の教授達から「日本が原子力エネルギーを捨てたら、日本の将来はないよ」と忠告されたことを紹介。「(日本も)現実の姿を真正面から見据え、原子力利用から逃げてはいけない」と強調。同氏はその理由として①日本は利用可能エネルギーの自給率がゼロに近い②風力・太陽光発電は安価ではない③原発を再稼動しなければ3.5兆円の国富が流失し、日本から仕事がなくなる④原発はむしろ地球温暖化対策の切り札である- などの点を挙げ、「世界中の知恵を集め、世界で最高の安全確保体制を、ハード・ソフトの両面で実現し、原子力エネルギーの利用を図っていくべきだ」と訴えた。

(文 JST/CRCC編集部)